はじめに
近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、多くの企業がクラウドサービスを活用するようになっています。クラウドの柔軟性と拡張性は、ビジネスに大きな価値をもたらす一方で、時として予期せぬコスト増大をもたらすことがあり、企業のクラウドコスト管理はますます複雑化しています。Amazon.comのCTOであるWerner Vogels氏も一昨年のAWS re:Inventの基調講演にてコストを意識したアーキテクチャ設計をすべきというメッセージを発するなど昨今、クラウドの利用においてそのコストを意識することの重要性は高まるばかりで、最適なリソース配分や無駄なコストの削減が重要な課題となっています。この傾向は日本全体でも顕著であり、巨大テック企業などへの利用料支払いによる「デジタル赤字」は2024年には6兆円を超えると見込まれ、2030年には約10兆円規模まで拡大すると経済産業省は予測しています。これは2023年の原粗油輸入額11兆円に迫る規模であり、今後さらなる拡大が予想されます。一方で従来のコスト最適化手法は、専門的な知識や時間を要することが多く、特に中小企業にとっては大きな負担となっています。
このような課題に対応するため、FinOps(Financial Operations)という新しい実践方法が注目を集めています。
なぜいまFinOpsが注目されているか
- クラウドコストの急増
- デジタル化の加速により、クラウドサービスの利用が爆発的に増加
- 従来の予算管理手法では対応が困難な状況が発生
- 予期せぬコスト超過が経営課題として浮上
- ビジネスのスピード要求
- アジャイル開発やDevOpsの普及により、システム環境の迅速な変更が日常化
- 従来の承認プロセスでは開発スピードに追いつけない状況
- 組織の責任所在の曖昧さ
コスト管理の責任所在が不明確化
クラウドリソースの利用が部門をまたがる形で拡大
FinOps Foundationとは
FinOpsを標準化し、体系化する組織として、FinOps Foundationという団体があります。FinOps Foundationは、Linux Foundationのサブグループとして2020年に設立された非営利団体です。クラウドの財務管理のベストプラクティスを確立し、標準化することを目的としています。世界中の企業、クラウドプロバイダー、テクノロジーベンダーが参加し、FinOpsの普及と発展を推進しています。
主な活動として、以下のような取り組みを行っています:
- FinOpsの原則と実践方法の確立
- FinOps実践者の認定制度の運営
- ベストプラクティスの共有とコミュニティの形成
- 技術標準とフレームワークの開発
企業がクラウドの財務管理を効果的に行うために必要な知識、ツール、メソッドを提供し、グローバルな標準として確立することを目指しています。
FinOpsの6つの原則
FinOps Foundationでは、以下の6つを基本原則として定義しています:
1. チームの協働(Teams need to collaborate)
- 財務、開発、運用、ビジネス部門が緊密に、リアルタイムで協力する体制の構築
- チームは協力して、効率性と革新性を継続的に改善
2. クラウドのビジネス価値に基づいた意思決定(Decisions are driven by business value of cloud)
- ユニット経済と価値ベースの指標は、総支出よりもビジネスへの影響をより適切に示す
- コスト、品質、速度の間で意識的にトレードオフを決定
- クラウドをイノベーションの推進力として考える
3. 全利用者による責任所有(Everyone takes ownership for their cloud usage)
- エンジニアはアーキテクチャ設計から継続的な運用に至るまでコストの所有権を所持
- コスト効率の高いアーキテクチャ、リソースの使用、最適化に関する意思決定を分散
4. 一つのチームが中心となってFinOpsを主導(A centralized team drives FinOps)
- あるチームが中心となってFinOpsにおけるベストプラクティスを普及、実現する
- エンジニアや運用チームが料金の交渉を行う必要を無くし、環境の運用に集中できるようにする
5. クラウドの変動コストモデルの活用(Take advantage of the variable cost model)
- クラウドの変動コストモデルをリスクではなく、価値提供の機会として捉える
- キャパシティの予測、計画、購入をジャストインタイムで実施
- 静的な長期計画よりもアジャイルな反復的計画を優先
- 定期的な事後対応的な改善ではなく、継続的な最適化を伴う予防的なシステム設計を採用
6. タイムリーなレポーティング(FinOps data should be accessible and timely)
- コストデータを入手次第、即時に処理・共有
- リアルタイムの可視化により、より良いクラウド利用を自律的に促進
- 迅速なフィードバックループにより、より効率的な行動を実現
- 組織のあらゆる部分でクラウドコストの一貫した可視性を提供
- リアルタイムの財務予測と計画を作成、モニタリング、改善
- 傾向分析と差異分析によりコスト増加の理由を説明
FinOpsプラクティスの実践事例
FinOpsの成功には組織的な取り組み、明確な指標設定、適切なツールが必要であるということを、メルカリとAirbnbの事例から説明します。
・メルカリの事例
背景と課題
フリマアプリを提供するマーケットプレイス事業とFiintech事業を展開する企業グループであるメルカリは、Google Cloudを主とする複数のパブリッククラウドを利用していましたが、以下のような課題を感じていました:
- クラウドコストがビジネスの成長を上回るペースで増加
- コスト構造がブラックボックス化
- 各部門のクラウド利用状況が不透明
取り組みと施策
上記の課題に対し、メルカリは以下の施策を打ち出しました:
- 専任チームの設置
- FinOps専任チームを組成し、全社的な取り組みを開始
- グループ全体の200以上のマイクロサービスを対象に活動
- 可視化とレポーティング体制の確立
- コストダッシュボードの作成
- 日次データによるリアルタイムな状況把握
- 指標とKPIの設定
- トランザクションあたりのコスト等、ビジネス指標との連携
- 四半期ごとのOKR設定と進捗管理
- CPUやメモリの利用効率などの具体的KPI設定
・Airbnbの事例
背景と課題
Airbnbは設立当初からAWSのクラウドサービスを利用し、急速に拡大するワークロードに対応してきましたが、以下の課題に直面していました:
- 数百のサービスによる複雑な運用環境
- 戦略的で一元化された購買管理の必要性
- コスト配分の可視化ニーズ
取り組みと施策
上記の課題に対し、Airbnbは以下の施策を打ち出しました:
- データ分析基盤の構築
- AWS Cost Explorerによるコスト可視化の開始
- カスタムパイプラインによる詳細な分析体制の確立
- Amazon EMRを活用したビッグデータ分析の実施
- コスト最適化施策の実施
- Savings Plansの早期導入によるコンピューティングコストの削減
- S3 Intelligent-Tieringによるストレージコストの27%削減
- Amazon OpenSearch Serviceの最適化による60%のコスト削減
- 組織体制の整備
- 財務チームとテクノロジーチームの協働体制確立
- データ主導型の意思決定プロセスの導入
- 個人とチームの権限委譲によるコスト管理の推進
実践的なFinOpsの導入ステップ
Step 1: 可視化と分析
- クラウドコストの詳細な把握
- タグ付けによるコスト配分の明確化
- ダッシュボードの整備
Step 2: 最適化
- 未使用リソースの特定と削除
- リザーブドインスタンスやSavings Planの活用
- アーキテクチャの最適化
Step 3: 運用プロセスの確立
- 定期的なコストレビューの実施
- 予算管理と警告システムの導入
- 継続的な改善サイクルの確立
まとめ
FinOpsは、単なるコスト削減手法ではなく、クラウド時代における新しい財務管理の考え方です。組織全体でクラウドコストに対する意識を高め、ビジネス価値の最大化を目指す文化を醸成することが重要です。
特に日本企業においては、従来の予算管理との整合性を図りながら、段階的にFinOpsを導入していくアプローチが有効でしょう。クラウドの効果的な活用とコスト最適化の両立を実現するために、FinOpsの導入を検討することをお勧めします。
クラウドコスト削減は我々にお任せください!
多くの企業では、日々の業務に追われる中でFinOpsの導入に十分なリソースを割くことが難しい状況です。AWS環境は日々進化しており、最新の最適化手法や節約オプションを常に把握しておくことは容易ではありません。
そこで、弊社では完全成果報酬型のクラウドコスト削減サービス、CTO Boosterを提供しています。
累計150社以上を診断するインフラチームが貴社のクラウドを担当いたします。
ぜひ下記リンクよりご相談ください!
CTO Boosterについて(ご相談のお問い合わせ)はこちら!
DELTAのコーポレートサイト
We’re hiring!
最後までお読みいただきありがとうございます。
現在もDELTA は一緒に働いてくださる仲間を大募集中です!
お気軽にフォームからご連絡ください☺
記事をシェア: